知られざるオランダの文化

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歌詞 Dankbaar - Kayaman オランダ語(7)

 ダンクバー Dankbaar とは、感謝やありがたく思う気持ち。

これは、ヤマン Kayaman*1チェルクTjerk による楽曲のタイトルです。歌っているのはこんな人たち*2

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(左)カヤマン (右)チェルク

この曲が収録されているのはトゥルペンマニー Tulpenmanie というカヤマンのデビューアルバム。タイトルは、日本語でいうチューリップフィーバーあるいはチューリップバブル、つまり17世紀、黄金時代のオランダがトルコからチューリップを輸入し、先物取引で価格が高騰した現象です。「チューリップフィーバー」という映画もあります(現在 Amazon prime で視聴可能、中身は英語)カヤマン自身もトルコ系の移民二世のため*3、こういうお洒落で華々しいタイトルをつけたのでしょう。ちなみにチェルクはギタリスト兼歌手です。

少し話が逸れましたが、アルバム全体の雰囲気は、バルカン風からスペイン風までヨーロッパを西へ東へ駆け回り、スカっぽい雰囲気もありつつ打ち込み系の気持ちいいビートが感じられる、というとごちゃまぜに見えますが聴けばわかると思います笑。つまりは味付けが濃い目だということです。カヤマン自身はルーツはヒップホップだと言っていて*4YouTubeに上がっている動画を見るとピアノギターもできるようです。

ダンクバー Dankbaar では、サビをチェルク、他のラップ部分をカヤマンが歌っています。どちらの声も弦楽器の音と合っていて素敵。

ネット上に動画が存在しないため、Spotifyのリンクを貼っておきます。歌詞もほとんど上がっておらず、唯一参照できたものも文字起こしに怪しい部分があるので、ある程度耳で補いました。未定稿の大意だと思ってください。

 

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日本語訳 

人々は感謝することを忘れている、なぜなら人生がとても素晴らしいから

あなたはいらないものが手に入れらなくても、幸せになるために必要なものは全て手に入る、屋根の下で暮らせるのさ

毎日ただ努力して笑顔でいれば、毎日食べて飲んでいられる、屋根の下で暮らせるのさ

ただ己の力を信じていれば、毎日食べて飲んでいられるんだ

 

ああ、そうさ、僕は昔に戻れないし、後ろを振り返らない、後悔せずに生きていく、だから

共に歩き見つめようよ、そうすれば一緒に飛び立てるさ

僕は少し懐疑的だけど、地面から伝わってくるものがあるのがわかる

僕にはわかるし、あなたも僕の意味するところがわかるね

あなたが笑顔いられることを軽んじないで

例えば、80歳の夫婦が手と手を取り合い公衆の面前で口づけするのを見て、あなたはその喜ばしさを感じるんだ

 

人々は感謝することを忘れている、なぜなら人生がとても素晴らしいから

あなたは欲しくないものが手に入れらなくても、幸せになるために必要なものは全て手に入るのさ

 

だから僕もまた感謝の気持ちを持っているというのは簡単なことさ、自分の目を、あるいはその代わりに耳を使うんだ

砂に落ちた7つの雨のしずくがどれほど奇妙に香っていることか

あなたの青年時代がよみがえる、だから僕は少しだけそれを長持ちさせてあげよう

そして笑顔で僕の背筋をちゃんと正してくれよ

その第三者が僕にもう何も言ってこない限り関係ないさ

これほどの多くの願いが僕を失望させる

僕が明るい気持ちになって、君がもはや心配しなくなったとしても

 

人々は感謝することを忘れている、なぜなら人生がとても素晴らしいから

あなたはいらないものが手に入れらなくても、幸せになるために必要なものは全て手に入る、屋根の下で暮らせるのさ

毎日ただ努力して笑顔でいれば、毎日食べて飲んでいられる、屋根の下で暮らせるのさ

ただ己の力を信じていれば、毎日食べて飲んでいられるんだ

 

より多くの問いに常に満足することで日々を埋めている人々が見える

そして彼らは、まるで明日になれば世界が滅びるかのように会話し

今日を生きることを忘れている

人々には見えないことがまだこんなにあるんだ

生き生きとしてなくたっていいのさ、たぶん

人々には見えないことがまだこんなにあるのだ、人々には見えないことがこんなに

 

人々は感謝することを忘れている、なぜなら人生がとても素晴らしいから

あなたはいらないものが手に入れらなくても、幸せになるために必要なものは全て手に入る、屋根の下で暮らせるのさ

毎日ただ努力して笑顔でいれば、毎日食べて飲んでいられる、屋根の下で暮らせるのさ

ただ己の力を信じていれば、毎日食べて飲んでいられるんだ

参照 Musixmatch - Song Lyrics and Translations

 

サビの原文を見てみましょう。

Mensen vergeten dat ze dankbaar moeten zijn want het leven is zo fijn zo fijn

Al krijg je niets wat je wilt je krijgt alles wat je nodig hebt om blij te zijn een dak boven je hoofd

Eten drinken elke dag zolang je maar streeft en lacht elke dag een dak boven je hoofd

Eten drinken elke dag zolang je maar geloofd in je eigen kracht 

人々は感謝することを忘れている、

なぜなら人生がとても素晴らしいから

あなたはいらないものが手に入れらなくても、

幸せになるために必要なものは全て手に入る、

屋根の下で暮らせるのさ

毎日ただ努力して笑顔でいれば、毎日食べて飲んでいられる、

屋根の下で暮らせるのさ

ただ己の力を信じていれば、毎日食べて飲んでいられるんだ

社会が豊かで快適になると同時に、日々をぞんざいに消化していることを批判しています。裏を返せば、衣食住などの豊さを自覚し、一日一日を大切に過ごしてほしいという意味が込められているのでしょう。「屋根の下で暮らせる」とは、ちゃんと住居があって暮らしていけているという意味です。

振り返って日本社会に目を向けると、例えば、何不自由なく暮らしていける「強者」はその生活を当たり前に思い、毎日「だる〜」とか言って出社・登校してたりしますが(あくまで一例です!)一度立ち止まって、与えられた時間の貴重さを確認したいところですね。

余談ですが、「強者」には他者と助け合うことを拒否しがちな人もいます*5。しかし、いつ誰が「弱者」や「マイノリティ」になってもおかしくありません。例えば、明日会社が倒産して露頭に迷うかもしれない、10分後に事故に遭って半身不随になるかもしれない…。でもそれはその人のせいではないのです。

そして強者が社会的に強者でいられるのも、その人の自力だけで獲得した地位ではありません。2019年4月に話題になった、上野千鶴子氏の東大入学式のスピーチでも、そのような話がありました*6。個人的には上野氏の様々な主張の中には賛同しかねるものもありますが、このスピーチは女性差別学歴差別のみならず、あらゆる「強者」と「弱者」の構造の問題に当てはまる、誰もが考えるべき課題であると深く納得しています。

現代社会の快適さをただ享受するのではなく、今の環境が恵まれていることに気付き、内面的にも豊かになり、それを他者と共有して生きていくのが理想ですね。なかなか理想の実現は難しいですが、この曲を聴くたびに自分の生き方を見直すだけでも意味があるでしょう。

 

ヤマンの歌詞にはしばしばそういった、人生を大事にしようというメッセージや、社会から距離のある人や弱者への優しい眼差しが感じられます。アルバム Tulpenmanie はこちら。

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ちなみにダンクバーのシングルバージョンもあります。歌詞とメロがちょっと違います。

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 それではまた次回、Tot volgende keer!

*1:現在はクビライ・カヤ Kubilay Kaya 名義で活動

*2:写真はYoutubeよりhttps://www.youtube.com/watch?v=olQzZQYqxN8

*3:https://www.maxazine.nl/2011/07/07/kayaman-tulpenmanie/

*4:KUBILAY KAYA バイオグラフィーhttp://www.kubilaykaya.nl/index.html#content2-6

*5:ビジネスインサイダージャパン「日本社会は「助け合いにあふれている」と考える人は2%。20〜30代男性4割は助け合いに拒否感も」https://www.businessinsider.jp/post-207610、2020年2月14日

*6:平成31年東京大学学部入学式祝辞 https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/president/b_message31_03.html